競艇がもっと好きになる!競艇漫画考 第1回

2022年12月6日

モンキーターン

「モンキーターン」
(河合克敏 / 小学館)

競艇を扱った漫画でもっとも有名と言っても異論は出ないであろう、「モンキーターン」は競艇漫画の金字塔である。
とはいえ、最初に週刊少年サンデーで本作を見つけたときには驚いた。
「少年漫画で競艇?大丈夫か?」が最初に抱いた印象である。

作者は本作の前に柔道を扱った漫画でまずまずのヒットを飛ばしていたが、今回はちょっと奇をてらいすぎたのではないか、こんなマイナーな世界を扱って読者がついてくるだろうかと、勝手に心配したものである。

その予想は見事に外れ、連載は10年続き、単行本は全30巻。
2000年前後の少年サンデーをリードした人気作品となった。
「モンキーターン」「モンキーターンV」としてテレビ東京系でアニメ化され、PlayStationのゲームになり、パチンコ・パチスロ台も作られた。
モバゲーにも「モンキーターン」があったというのだから、相当に稼いだのは間違いない。
ここまでのヒット作になるとは編集部も、作者も思わなかっただろう。

布石がなかったわけではない。
「モンキーターン」の連載が始まる2年前の1994年、競走馬の牧場を舞台とした「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」が好評を博しており、こちらはストレートに競馬を描いていたわけではないが、編集部には「ギャンブルの世界も描きようによっては少年誌読者に受け入れられる」という手ごたえがあったはずだ。

余談になるが、1994年はサンデーにおいて後の大ヒット作になる「名探偵コナン」「MAJOR」の連載が始まっており、編集部にも勢いがあったものと思われる。
ある程度販売部数が読めるのであれば、その間に新人作家や新しいジャンルの作品を育てようという気になるものだ。

とはいえ、少年漫画で競艇を扱うのはおそらく本作が最初なだけに、ある種の冒険ではあっただろう。
ジャンルとしての競艇漫画は、「ターンマークの鷹」が先に世に出ていたが、そちらは大人向け雑誌の連載だ(出版社不明)。
なにしろ、競艇そのものはスポーツだが、世間の認識は「ギャンブル」である。

「じゃじゃ馬~」は牧場のストーリーなので許されても、「モンキーターン」は正面から競艇を描くのだから話が違う、と言われるのではないかと心配は尽きない。
今のネット炎上もそうだが、批判する人間は中身をじっくり読んだりせず、第一印象だけで徹底的に否定する。
その事情は昔も今も似たり寄ったりなので、編集部も慎重だったはずだ。
そういった配慮もあったのだろう、本作の中ではギャンブル的な側面はさほど触れられず、「モンキーターン」は全編スポーツ漫画として描かれている。
健全すぎるくらい健全に描かれているので、日本船舶振興会から初心者向けの入門書として推薦されたくらいである。
本作を読んでボートレーサーを志した選手もいるという。

「美味しんぼ」を読んで料理人を目指した、あるいは「動物のお医者さん」を読んで獣医を目指した人がいるように、広く受け入れられた漫画は読者の人生に影響を与える。
「モンキーターン」もまた、その影響力は社会的なレベルに達していたと言っていいだろう。

さて、「モンキーターン」のストーリーは、挫折した元高校球児の主人公が野球部顧問の教師に紹介されて競艇と出会い、競艇選手を目指すという比較的リアルな設定。
面白いのは、「ターンマークの鷹」の主人公が元暴走族であったように、本作の主人公もバイクに乗っているという点である。
マシンを操縦するのが好き、つまり、もともと競艇選手の素養がある設定だ。

そうなると、多くの少年漫画は主人公がいきなりプロのトップレーサーに勝負を挑む(最終的に負けるがプロをあと一歩のところまで追い詰めるのがパターン)いうことになりがちなのだが、本作の主人公はそう簡単に大活躍させてもらえない。
研修所での下積み生活がじっくり丁寧に描かれており、このあたりも船舶振興会のオジサン方に好感を持たれたポイントだろう。
何度も転覆し、挫けそうになりながらも、着実に実力を蓄えて卒業記念レースで見事優勝。
プロになってからも事故で大けがを負いながら、辛抱強く克服して勝負の舞台に復帰する。

そして人間関係。
導いてくれる師匠や先輩たちとの縦関係、競い合うライバルとの横関係、そして少年漫画だけに(大人向けでもだが)恋愛の要素もしっかり織り込みつつ、長い連載期間の中で層の厚い作品世界を構築しているのである。

いっぽう、レースの駆け引きやテクニック面についてもやさしく解説されているので、こちらに興味を持った読者もいるだろう。
競艇は単なる「速さ比べ」ではない、勝つためには度胸や体力に加え状況を読む戦略眼と、マシンを整備するメカニック的スキルが必要になる。

レースの奥深さを描くことで、本作は頭脳派のスポーツファンも取り込むことに成功した。
多少現実離れした漫画的なファンタジー要素がないわけではない。
しかし、競艇そのものの持つリアルの魅力を十分に引き出せたことが、「モンキーターン」のヒットの最大の理由であることは間違いないと思う。

「モンキーターン」の連載は1996年から2005年まで。
すでに連載が終了して17年が経過しているが、もし本作が現在を舞台に「モンキーターン2022」のようなタイトルでリメイクされたら、「競艇予想サイト」は出てくるだろうか。
悪徳予想サイトに騙された主人公がボートレーサーを目指す!
ちょっと無理があるか・・・。

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Posted by 競艇の鬼